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2017-03-17

Essays #12 / バライタ

essay_12

Text written by Komatsu Hiroko

モノクロフィルムで撮影されたフィルムはモノクロ印画紙にプリントされますが、「バライタ」と「RC」と呼ばれる二種類の印画紙があります。バライタ紙とは写真用に特別につくった用紙にバライタ層を塗布・乾燥させた印画紙用原紙のことで、バライタ層は感光乳剤の下引層であり印画紙表面の反射を増し乳剤が原紙の繊維内にしみこむのを防いでいるそうです。バライタ紙を支持体に用いて製造されている吸水性の印画紙は、「バライタ」と呼ばれることがあります。RCペーパーとは両面にポリエチレンを塗布して非吸水性にした紙を支持体に用いた写真用印画紙のことで、たんに「RC」と呼ばれることがあります。
一般的なプリントの行程として、まず撮影されたネガフィルムからコンタクトプリントを制作します。これはネガティブの画像をポジティブに変換して見やすくするための行程で、フィルムと印画紙を圧着して光をあてて現像します。圧着しているのでフィルムの大きさとプリントに印画された画像の大きさは同じになるため、例えばわたしの使用している35mmフィルムでは画面サイズが24mm×36mmとなります。このサイズでは画面を細かく把握出来ないのでコンタクトプリントから選んだフィルムを六切印画紙(約20cm×25cm)などにプリントします。これらのプリントをもとにセレクションをして展示用の大きいサイズのプリントを制作したりします。
一般的にコンタクトプリントとセレクションのもととなるプリントは「RC」で、展示用プリントは「バライタ」で、といわれることがあります。これは長期保存などの観点もありますが、支持体となっている紙が吸水性か非吸水性かに依る作業工程の差も大きな理由のひとつと考えられます。「RC」は現像・停止・定着後に30秒から2分程度の流水での水洗終了後に乾燥させることで後処理が完了します。「バライタ」の後処理は考え方により異なるとは思いますが、わたしの場合、まず5分程度の流水での予備水洗後に水洗促進剤に浸します。一度に数十枚から百枚程度プリントするので、バットの中で全てのプリントに水洗促進剤が触れるように、印画紙のイメージ面を上に重なった印画紙の一番下の一枚を引き抜いて表返して重なった印画紙の一番上に置き、次にまた一番下の印画紙を抜いて表返して重なった印画紙の一番上に置きます。最後まで繰り返すと全ての印画紙が裏面(白い面)を上に重なった状態になるので、この状態で5分ほど置き、もう一度一番下の一枚を引き抜いて今度は全てイメージ面が上となるように裏返していく行程を繰り返し、水洗促進剤を捨て再び5分程度の流水での予備水洗をします。印画紙が現像・定着・停止の行程で薬品を吸っているので薬品を排出するために、その後バットに水を溜めて、全ての印画紙を引き抜き裏返して5分置き、再び印画紙を引き抜き裏返し水を取り替える行程を5回繰り返した後に、水切り剤に浸して乾燥させます。非吸水性の「RC」と異なり「バライタ」は乾燥に一晩程度を要します。乾燥したら一枚ずつドライマウントプレス機という機械で熱と圧をかけてフラットニングし後処理が完了します。
わたしはコンタクトプリントも六切印画紙からロールサイズのプリントまで全て「バライタ」を使っています。プリントは日常的な作業なので当然「バライタ」をプリント・後処理・展示に至るまで素手で扱っています。これらのプリントがひとたびわたしの手を離れキュレーターやギャラリストなどの手にわたると、作家であるわたしでさえもつい先ほどまで素手で扱ってたにも関わらず白い手袋を着用してプリントを扱わなくてはならなくなります。
「バライタ」はとても手触りの良い紙です。水洗中ももちろんですが、特に乾燥後フラットニングのために暖められた「バライタ」は本当に触っていて気持ちの良いもので、素手での扱いに至福感が伴います。わたしの『Book#1』という作品は「バライタ」のオリジナルプリントを手で製本して制作していますが、この気持ち良さを作品と繋げる試みが作品制作の発端のような気がしています。