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2017-05-13

Essays #19 / 展示会場の再現性

essay_19

Text written by Komatsu Hiroko

展覧会において、床と壁面に貼る8×10の写真の並べ方は事前には決めていません。展示することになる枚数は会場図面から割り出して事前に把握しているので搬入時に必要な枚数の印画紙を会場に持参します。日常的にネガの順番にプリントして保管しているので、だいたい撮影された順番に一時保管用の箱に入っていますが、搬入時に大きくシャッフルして撮影した順番とならないようにします。そうすることで連続した時間の流れを分断する意図(Essays#10/時間)があります。
以前に主な発表の場としていた貸画廊であれば、搬入に使える時間が数時間しかないため手を貸してくれる貴重な人材を総動員して一気に会場の設営を行う必要がありました。シャッフル済みの写真の束を適宜手渡して、写真の束が重なっている順番に各人が担当するべく振り分けられた壁面・床面に貼ってもらいました。これには良い面がふたつあります。ひとつは搬入時間の短縮、もうひとつは作為から解放されることです。また貸画廊においては搬出時間は搬入時間よりさらに短く1〜2時間程度で全てを終えなくてはならないため、再び人材を総動員して一気に写真を壁面・床面から剥がして箱にどんどん詰めて搬出を完了させる必要がありました。
2015年にドイツの“6th Fotofestival”に参加したときは搬入に4日間と数人のアシスタントが与えられましたが、わたしに割り当てられたスペースが日本の一般的な貸画廊の2〜3倍と大きかったこともあり、普段と同様にシャッフル済みの写真の束を適宜手渡して、写真の束が重なっている順番に壁面・床面に貼ってもらいました。搬出は現地のスタッフに全ておまかせで、通常通りどんどん剥がして箱に詰めておいてもらうようお願いしておきました。
“6th Fotofestival”の会期が終了し、現地のスタッフから搬出も無事終了との連絡をもらってから少し時間が経ったころ『Sanitary Bio-Preservation』の一部である長さ約12メートル高さ約2.5メートルの壁面がイタリアのMASTファンデーションにコレクションされることになったと聞きました。
大変なことになってしまいました。これまでわたしはインスタレーション、展示会場の再現性については全く考えたことがなかったのです。
この展示で使った写真は総重量で約120kgあるので全てドイツから日本に送ってもらうと大変に高額になってしまうため、なるべく最小限の写真の移動で済むように、壁面に貼ったであろう写真だけを送り返してもらうよう依頼しました。そもそも再現を前提としていないため、床面に貼った分が混入し再度送り直してもらうなどして、何とか手元に壁面の8×10写真がそろいました。再現を前提とした会場撮影をしたわけではないのですが、仕方がありません、手に入る会場写真を出来るだけ集めて大きくプリントし、一枚一枚8×10のプリントと付け合わせながら特定していきました。
確かに「鑑賞者は私の展示会場の至る所で同一の場所で撮られた良く似た、しかし異なる写真に出会い、強制的に時間を引き戻されます」とは、わたし自身がイタリアの写真とアートのWebマガジンlandscapestories.netに掲載されたなかで語ったことです(日本語訳あり)。まさか自分自身が600枚もの「良く似た、しかし異なる写真に出会」うことになるとは思いませんでした。まさに「強制的に時間を引き戻され」ながら、わたしを含めた3人の人たちが約10日間も、壁面の再現に拘束されることになったのです。
この壁面は無事に『Sanitary Bio-Preservation / The wall』として再現可能な設計図とともにMASTファンデーションにコレクションされて、実際に展示もされていますが、インスタレーションの再現については今後も考えるべきことがたくさんあるようです。