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2017-08-04

Essays #25 / ワイヤー

essay_25

Text written by Komatsu Hiroko

わたしが写真を始めたときはモノクロ・フィルムを使い自分でフィルム現像もプリントもするというのが一番安価な方法でした。たくさん撮ってたくさんプリントするためにモノクロ・フィルムを選択したという側面もあります。多くのお金を得るためには多くの時間を切り売りする必要があります。時間を出来るだけ制作に割くためにも安価な方法での制作を選択することが重要でした。そして生活空間とは別に制作する場所である暗室を持つことは経済的な負担が大きいので、写真を始めたときからずっと生活空間に暗室を作っています。当然のように生活空間自体が狭いので、制作と生活の行為が混ざり合います。長時間プリントをする日は生活空間全体を暗室仕様にしているので、作業中に空腹を感じれば薬品の臭いが充満している部屋で食事をしますし、作業が数日に及ぶ場合は薬品の臭いが充満している部屋で眠りもします。
わたしは日常的にバライタ印画紙を使っていますが、一般的にバライタ印画紙はプリントして水洗したら平らな場所に置いて乾燥することになっています。しかし狭い空間に大量の印画紙を乾燥させる場所はないので、たくさんのクリップを取り付けたワイヤーを部屋に張って、クリップで印画紙を挟んで乾燥させています。この方法は水に濡れた印画紙の一定方向に力が掛かり歪むというので推奨されていませんが、床などに印画紙が接していないので速く大量に乾燥することができるのでわたしにとっては良い方法です。わたしの身長で手を伸ばせばクリップに印画紙を挟むことができて、頭がワイヤーに引っかかることの無い床から1.8メートルの高さにワイヤーを張っています。フィルムも水洗後に同じワイヤーに掛けて乾燥させています。
幅が110センチで長さが30メートルあるロール印画紙を乾燥させるとき、生活空間のなかに直線距離で30メートルある場所は当然ありませんので、部屋いっぱいに平行に何本ものワイヤーを張って、印画紙をつながったままそれぞれのワイヤーに引っ掛けることにしました。すると6畳間の広さがあれば30メートルを充分に乾燥させることができます。ワイヤーを緩みなく張らないと印画紙とワイヤーが接する面が少ないので、印画紙の両側2点のみに力が掛かり、そこから切れてきます。ワイヤーを緩みなく張るためにターンバックルという器具で締める必要がありますが、締めすぎると壁とワイヤーを固定しているよーとが抜けて危険です。ある時からインスタレーションでワイヤーを使いロール印画紙を展覧会場の壁以外にも展示するようになりました。これは自宅でロール印画紙を乾燥させている方法と同じ方法をとっています。ワイヤーが太い方が多少緩んでいても印画紙と接する面が大きいので印画紙が切れにくく安心ですしインスタレーションの場でも存在感を発揮するかもしれませんが、現在使っている1.2ミリのワイヤーがわたしの力で切ったり加工したりできる最大の太さなのです。
Book#1」という作品を制作するときに日常的に使っている材料で制作したいと考えたので、1.2ミリのワイヤーとターンバックルを本の装丁にも使っています。