toggle
2017-02-18

Essays #9 / 地図

essay_9

Text written by Komatsu Hiroko

わたしは撮影のために同じ場所を訪れることはほとんどなく、常に行ったことのない初めての場所を訪れるようにしています。行ったことがない場所なので当然その場所について何の予備知識もありません。その際にガイドとなる地図は撮影行為のなかでも重要な位置を荷ないます。
地図における縮尺とは測量によって作成された地図上の二点間の距離と、現地における対応する距離との比で、縮尺が1/10とは実物の10mが1mになっていることを示しています。わたしの撮影は徒歩で行われるので、縮尺が1/10000の地図、つまり10mが1mmになっている地図が使い勝手が良いようです。これより大きいと個別の建物などが識別出来ず、小さいと一日の撮影で歩く距離が地図の何ページにもおよび地域を俯瞰して認識することが出来ません。Googleマップなどインターネットを通して提供されている地図もありますが、紙に印刷されて本の体裁になっている地図のほうがわたしの撮影には適しているようです。
地図を見ることで撮影場所を決めますが、地図は読み方によって様々な情報を有しています。例えば大企業の生産ラインとしての工場は敷地も広く高い塀に囲まれているので撮影には向きませんが、撮影向きの小さい工場である多くの下請け業者が近隣で営業している場合が多いので、まず地図上で大企業の規模の大きい工場を探すというのも一つの方法です。地図は地表の一部あるいは全部の状況を通常は縮小・記号化し平面上に表現したものなので当然現実とは異なりますが、想像力を働かせて地図を読んだうえで実際に現地に行って撮影し再び地図を見るというサイクルを繰り返すことで読解力が向上していくところは言語と似ています。頭の中にある抽象的な考えを言葉にする・文章にするなど言語化し再び思考するサイクルを繰り返すことで、思考が明快に更に深まってゆくところが地図と言語が相似している点だと思います。
地図の具備すべき条件として(1)距離(2)面積(3)角(4)形の正確さ(5)明白さ・理解しやすさ等の要素があるとされますが、地図が具備すべき条件を全く備えない地図を編むことが出来るのが写真だと思います。この写真で編まれた地図は特定の場所を訪れたり理解したりといったことには役立たないかもしれませんが、文字よりも古いコミュニケーション手段であったとされる地図において別の現実を提示する方法として有効だと考えています。