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2016-10-15

Quotation #36 / 正直な告白

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ロバート・カレン『子供たちは森に消えた』(広瀬順弘訳、早川書房、2009)より引用
Text quoted from “The Killer Department” by Robert Cullen

陳述書

提出先 ロシア・ソヴィエト社会主義共和国連邦検察官
提出者 アンドレイ・チカチーロ

私は十一月二十日に逮捕され、それ以来ずっと拘禁されています。いまの心境を正直に申し上げたいと思います。私は抑圧された耐えがたい状態におかれています。自分に罪があること、不安定な性的感情を持っていることはわかっています。頭痛、記憶力の弱さ、不眠症、性の悩みのために、以前、精神科で診てもらいました。しかし、治療の効果はありませんでした。

〔中略〕

抑圧された耐えがたい状態におかれて、私は自分の人生がずっとあまりにも苦悩と恥辱に満ちたものだったことを思い出します。たまたま仕事柄出張が多く、私はソ連じゅうのあちこちの町に行きました。そのため列車や、電気鉄道(エレクトリチカ)、バスをよく使ったので、あちこちの駅や乗り物の様子を見てきました。どこも若いのや年とったのなど、ホームレスでいっぱいです。連中はあれこれせがんだり、施しを求めたり、盗みをはたらいたりします。午前中から酔っ払っていて、夜中まで、売店や駅でビールやウオッカを飲んでいます。われわれ労働者は仕事がありますから、とてもそんな真似はできません。経済的な余裕もありません。
こういう怠け者たちは未成年者を悪の罠に引きこみます。連中は列車に乗って駅からあちこちに行きます。駅や列車のなかで、こういう怠け者たちの卑猥な行為を何度も見せつけられました。そのたびに私は、自分がいまだに一人前の男であることを証明できないでいることを思い出し、屈辱をおぼえました。
やがて、疑問がわいてきました。はたしてこういう腐った連中に、みんなが見ている前で大手を振って生きている資格があるのだろうか? 連中のせいで、みんな迷惑をしているというのに? そこで、私は考えました。この怠け者たちはもとはどこにいたんだろう? 勤め先も、家もあったはずです。一人ひとり身元を調べて、もといたところに連れもどせば、自分で働いて、自分で暮らしていけるはずではないか? たしかに、連中のなかには精神的におかしかったり、障害を持っていたりするのが大勢います。でも、どこもおかしくない連中だっているはずです。当然、疑問が起きます。なぜそういう連中が人にたかって生きるのを許されているのか? そればかりか、連中はどんどん子供を産んで、ますます増えています。子供をだしに物乞いで稼いで、ぜいたくをしているのです。それに子供だってそのうち、親と同じ犯罪者の仲間入りをすることになります。こういう連中と知り合いになるのは難しくありません。連中は自分たちから近づいてきて、カネや食べ物やウオッカやビールをねだり、身体を売ろうとします。連中が客と一緒にそこらの物陰や木立に入っていくのを何度も見ました。そうしては人の噂や新聞で、町はずれや道路や鉄道沿いで死体が発見されたという話をよく聞いたり読んだりしました。そういう世の中のいろいろな状況のなかで、いつも屈辱を感じ、職場の仲間にしょっちゅう笑われ、どこへ行っても無教養で厚顔無恥な人間の下で働かなければならない。この屈辱と不公平さのせいで、私はいつも心のなかで闘っています。自分ではよく仕事のできるちゃんとした労働者だと思っているのに、記憶力が弱いせいで辱めを受けます。そこで、いつもペンと手帳を持って歩くようにすると、何でもメモするといってみんなが笑います。ごく最近は社会的な不公正と戦っています。息子のアパートがただでも古くて暗く、じめじめしているせいで、私は憂鬱だった。ところが、市はそのすぐ隣にトイレとガレージを作ることを決めたのです。
私は市の党委員会、州の党執行委員会、ゴルバチョフ大統領に抗議の手紙を書いて、改善を求めました。しまいに市は、法的処置をとるといって私を脅しました。実際に、シャフトゥイ氏の検事とロストフ州の検事に告訴したのです。私はそんな困難にも、それに健康面では心臓発作にも耐えました。私は両脚とも関節炎を患っています。私の年ではあまり必要ではありませんが、それでもインポテンツのせいでときどき自殺を考えますし、実際に試みたこともありました。月曜日に(今日はまだ木曜日だが、チカチーロは金曜日と考えているらしい)弁護士の立ち会いのもと、自分がやったことをすべて告白します。

A・チカチーロ