“Channeled Drawing” by Hiroko Komatsu
Dates: February 8 – 26, 2022
Open: 12:00 – 20:00, Monday to Saturday
Location: IG Photo Gallery (Tokyo, Japan)
Archive: Talk-show (Japanese) in IG Photo Gallery (YouTube)
Overview
In recent years, Hiroko Komatsu has been creating photogram works. For example, she uses photogram work for her handmade books. This exhibition is her new attempt to create a combination of frottage and photograms.
The framed and neatly arranged works will give a different impression from her previous whole-room installations.
Statement
外界感知のための多種類の感覚機能のうち視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚を古来の分類により五感と呼ぶ。視覚は五感のひとつであり形態覚・運動覚・色覚・明暗覚などの総称として用いられる。光は角膜・瞳孔・水晶体を通過して、明るい場所で主に色を見分ける錐体細胞と暗い場所で主にカタチを見分ける桿体細胞の2種類の視細胞が並ぶ網膜に届く。視細胞が受け取った光の刺激の情報は双極細胞・視神経から脳の視覚野に伝わり処理されるが、網膜の中心付近の錐体細胞が密集した黄斑に映った像は特によく見えるとされる。
19世紀に網膜の画像感知について研究していたドイツの生理学者によってロドプシンと呼ばれる色素が発見された。光をあてたロドプシンは一部が変形・分裂し、色素が一時的になくなるため再び光に反応できる状態まで細胞がロドプシンを再結合する。この過程は光を写真乾板の上にあてた際に起こる化学反応に似ているが、乾板ではネガ像、網膜ではポジ像が得られる。別のドイツの生理学者は網膜内のロドプシンを化学薬品で定着させ、動物が最後に目にした物の画像を現像するオプトグラムは理論上実現可能であると考え、動物実験での証明を試みた。ウサギを暫く暗い状態に置き、その後明るく晴れた窓を強制的に数分間見つめさせた後に、直ちに殺して眼球を取り出し、その網膜をミョウバンに浸すことで組織を縮小・凝縮・硬化させ、窓から差し込む光の像をオプトグラムとして再現させることに成功したという。
ミョウバンに浸された網膜はアーカイヴには適さないため何らかの処理が必要となる。生物の組織の保存という見地であれば凍結やホルマリンなどであろうが、画像の保存であれば拡大や複製が自在であることから写真が考えられる。19世紀であることとポジ像が得られていることから、カメラを使いフィルムで撮影する方法が取られたと思われる。ウサギの網膜のポジ像はフィルムでネガ像となり印画紙で再びポジ像になる。
オプトグラムについて新聞が特集記事を掲載したり大衆小説の題材になったりと、現実と虚構で同様に取り上げられたため、殺された者の網膜を一定時間内に撮影すれば殺した犯人が映し出されると信じる人々が現れた。例えば証拠とするために被害者の目を撮影する警官や医師、被害者の眼球を徹底して破壊したロシアの連続殺人犯などが挙げられるが、実験によって殺されたウサギの網膜にドイツの生理学者のポートレイトが映し出されたわけではない。痕跡とは過去にある事物があったことを示す跡を指すが、殺害された被害者の網膜に残されたオプトグラムを犯罪捜査に利用するという着想は実用には至っていない。